morinosoyの日記

ライティングの練習も兼ねて、いろいろな記事を載せます。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』感想殴り書き

【ネタバレ注意】

 

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結局女が死ぬ、と思って泣いた。


復讐なんて言えるほどの加害行為をキャシーはしたか?酔ったフリして、一切明確な同意をしないまま「いい人」である男に連れてかれて、そのまま同意をとらず行為に及びはじめ抵抗する声も聞かない男にシラフであることを明かし、真顔で「やめて」と言うだけ。性的なからかいの言葉を「冗談で」かけてくる男たちに、笑いかけずに見つめ返すだけ。同じ不安を味あわせて、故人のことを思い出させるだけ。あ、車破壊してたか。

 

同意の言葉を重視していたキャシーは、やっとできた心を許せそうな存在である彼が「わからない」と言った時、スっと身を引いて帰った。

 

最後の独身パーティのシーンでも、男に「何をしたか」を聞いただけとも言える。「彼女には常にあなたの名前がつきまとい、別のものになってしまった。あなたこそ、彼女の名前が付きまとうべきなのに」そう言ったキャシーは小指の爪ほどの刃を持つメスを取り出し、手錠で繋がれ暴れる男に乗りかかった。メスを持って、男の腹部のシャツを剥いて突き立てようとする。一緒に観に行った弟は「男を殺そうとした」と言っていたけれど、そんな小さなメスで何ができる?首に突き立てるのかと思ったがわざわざ腹に向かったし、手術じみたことしたいなら意識を失わせたり筋肉弛緩剤を飲ませるなりしてたはずだ。抵抗して暴れる男に、キャシーは彼女の名前を刻もうとしたのではないか?一生彼に付きまとうべき名を。


キャシーは危機を感じた男に乗りかかられて、枕で窒息死するまで、長い、長い間、最後までもがいていた。
こうやって女の声は塞がれるのか。


失踪届を出されたキャシーについて、父親は「そういうところがあった」と精神的に不安定だったと言い、「愛している」と言った元恋人も、自分に嫌疑が向くのを恐れ、確かにそうだった、自傷するのもありえると言った。
酔って連れていかれた部屋でシラフに戻り、はっきりと拒絶を言葉にするキャシーに「サイコパス」と言ったやつもいた。


真顔の女、痛みを忘れない女、男を恨む女は精神疾患に結び付けられやすい、と思った。それとも、強い感情を抑圧しようとしてしまったがために病に陥るのか。ここでは公開していないが、以前書いた「怪物とされる女たち」でも言及した。大きな、特に負の感情を持つ女は異常とみなされる。

 

キャシーは確かな爪痕を残した。「私がこの日に失踪したら、○○に…」女は死なないと復讐も遂げられないのか?

 

ここまで女が男が、とさんざん言ったが、この映画は男女の二項対立にせず、復讐の対象には被害者を軽視し二次加害をした何人もの女が、そして自分のしてきたことが忘れられず激しく悔いて、罰され許されることを望む男がいた。彼女のことを覚えて悔いていた復習対象者は、その男だけだった。

 

「遊んでいるから」と被害を信じられなかった女、死体を前に「殺してしまった」と言ってもなかなか信じて貰えなかった加害者の男。いいか、お前は悪くない。これは事故だ。お酒を飲んでたの?仕方ない、あなたが悪い。


映画的な復讐の派手さや、次々と起こる殺人、なんてものはなく、キャシーのやってることは意図的な面を除けば至極普通のこと。最後のシーンもキャシーには男を殺すつもりはなかったと私は思う(自分が殺されることは想定していただろうが……)。だからこそ、「今、ここ」にある現実味があった。

 

♡愛♡の力でハッピーエバーアフターになることもなく(あのキスシーンで終わったら暴れるところだった)、キャシーが男たちに求めるものとキャシーの行動に矛盾がないこと、キャシーをエンタメ的な猟奇殺人者に仕立ていないのがとてもよかった。だけどやっぱり、女は死ななければいけないのかという気持ちが残る。

 

上映後、『お嬢さん』、『ドラゴン・タトゥーの女』、『ゴーン・ガール』の衝撃的な断罪シーンが頭をよぎった。『ババヤガの夜』のような話がもっと読みたい。

とりあえず今から、何度目かわからない『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』上映会を、初めて弟を巻き込んで開催します。

 

追記

キャシー役のキャリー・マンガン、『17歳の肖像』のジェニーか!あの役を演じた人がキャシーを演じるの、最高すぎる。これから『17歳の肖像』を観る人にはぜひ『プロミシング・ヤング・ウーマン』をセットで観て欲しい。

 

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